科研費基盤(A)

圧力駆動電流による球状トカマクの立ち上げと制御
(平成21−23年度)

目的
 球状トカマク型核融合炉の成立性は、中心ソレノイドを用いないで、プラズマ生成、電流立ち上げ、配位生成を行うことである。我々は、波動を用いた球状トカマクの立ち上げ実験を行ってきた。このプラズマの特徴は開いた磁気面領域の存在であることを平衡解析で明らかにした。しかしながら、将来のより大型実験、核融合炉へこれまでの実績を外挿するためには、電流駆動機構、配位生成機構を解明する必要がある。そこで、本研究では、詳細な平衡解析、種々の計測、これまでと異なる
加熱手段を用いて、圧力駆動電流の特性を調べ、制御することを目的とする。具体的には高精度トムソン散乱計測による温度密度測定手法の開発とそれを用いた平衡解析。低域混成波帯高周波によるプラズマ加熱、平行方向、反平行方向電流駆動を行う。


研究実績報告書


研究成果概要

 新たな加熱手段の整備、種々の計測器の増強を行い、非誘導維持プラズマの特性を調べた。
 加熱手段としては、電子サイクロトロン共鳴周波数帯、低域混成波帯の二つの領域の波を用いた。また、トムソン散乱計測の改造、50 GHzマイクロ波干渉計の測定コード数の増大等の計測器の整備を行った。

 密度計測を整備して、(加熱用)マイクロ波を用いた非誘導プラズマ電流立ち上げ実験を行った。計測の結果、トーラス外側(弱磁場側)の境界に沿ってバナナ状の高密度領域が示唆された。このことは、非等方圧力が存在することを示唆する。
 精度・信頼度の高い電子温度測定のために、既設のトムソン散乱システムを改造した。開口数の大きな(NA=0.37)ファイバーに対応した分光器を設計・製作した。検出器を新しいより高性能なものに置き換え、新検出器用のプリアンプを設計・製作・試験した。これにより、従来よりも信号強度が大きく、高速な測定が可能となり、ダブルパス散乱実験の成功につながった。
 磁気計測を用いた平衡解析は、有用な手段であるが、測定位置から遠いプラズマ中心部の情報の不確定性は大きい。一方、本研究で対象とした波動立ち上げプラズマはイオン温度が数eV程度以下と低く、圧力は電子で決まる。そおような状況では、トムソン散乱による電子密度温度測定が平衡解析等に有効であると期待される。一方、波動立ち上げプラズマは密度が非常に低く(1x10^17m^-3程度)、散乱信号は極めて小さい。したがって、低密度プラズマの測定を可能とするマルチパストムソン散乱システムの開発が求められている。本研究では、開発の最初のステップとしてダブルパス光学系を設置し、密度の高いオーミックプラズマを対象に試験した。その結果、予想通りの信号が得られること、ダブルパスの往路、復路の測定結果の比較することで例えば、温度非等方性の測定が(10%程度の誤差で)可能であることが示された。これまでの所、波動立ち上げプラズマは密度が低く測定は不可能である。弱いオーミック電場を重畳したプラズマでは、1x10^18m^-3の密度が得られており、マルチパス配位の実現が望まれている。

 電子サイクロトロン共鳴波動加熱(2.45 GHz)では、充填ガス圧、波動加熱パワー、共鳴位置に依存して平衡が異なることが磁気計測を用いた平衡解析で明らかになった。
 新たな電子サイクロトロン共鳴加熱手段として8.2 GHz高周波源をTST-2トカマクに導入し、約10 kWの入射パワーでプラズマ電流5 kAのトカマク配位を生成維持に成功した。このプラズマの平衡は規格化圧力(ポロイダルベータ)が1より大きく、弱磁場側の開いた磁気面領域に有限の圧力、電流を持つことが特徴である。また波の入射方向を変えてもプラズマ電流等の放電波形は変わらず、圧力駆動が支配的である可能性が高いことがわかった。
 周波数200 MHzの高周波源およびコムライン型アンテナを用いて波による電流駆動の方向を制御した実験を行った。Co-drive時には最大15 kA、Counter-drive時は最大5 kAのプラズマ電流を駆動し、球状トカマク配位の生成維持に成功した。軟X線、硬X線放射の測定から、Co-drive時には、閉じ込め時間の短い高速電子がプラズマ電流のかなりの部分を担っていることがわかった。一方、Counter-driveの時は、高速電子ではなく、圧力駆動が支配的である可能性が高いことがわかった。これらのプラズマの平衡では規格化圧力が1程度であり、Co-driveとCounter-driveには、明らかな特徴の差はなかった。また、開いた磁気面領域に有限の圧力、電流を持たない、もしくはそれらが非常に小さいことがわかった。
 周波数200 MHzの高周波源を用いて、二つのアンテナ(コムラインアンテナ、シングルストラップアンテナ)でのプラズマ立ち上げプラズマの比較をした。前者では、中心でピークした電流分布が得られ、後者では、トーラス外側でピークした電流分布が得られた。

 本研究も含めて、TST-2装置では、四つの周波数(21 MHz, 200 MHz, 2.45 GHz, 8.2 GHz)、種々のアンテナ、偏波方向、入射角度の条件で実験を行った。いずれの手法でも非誘導的に球状トカマクプラズマを維持することに成功した。プラズマ電流の値は、おおよそ外部垂直磁場の値に比例し、平衡条件がプラズマの状態を強く制限していることが分かった。これらのプラズマはポロイダルベータが高いという特徴を持つ。一方、平衡配位の違いがあることもわかった。電流密度が弱磁場側にピークを持つ場合(その場合、開いた磁気面に有意な電流が流れることが多い)、電流密度が磁気軸でピークを持つ場合がある。実験的には、この違いが周波数やアンテナ加熱方法の違いに起因することがわかったが、その機構の理解にまでは至らなかった。波動電流駆動では、入射方法等に依存して電流駆動方向が異なると予想されるが、コムラインアンテナでの高プラズマ電流実験を除いて、波動電流駆動で予想される方向依存性は見られず、多くの場合に圧力駆動が支配的であると考えられる。

 開いた磁気面領域への電流注入と平衡制御を目的に、Lab6ホットカソードおよび、対向アノードを製作し実験をおこなった。真空磁場において、プラズマ電流 15 A、電子密度 5x10^16m^-3のプラズマを生成することができた。また、マイクロ波加熱時には、十分な予備電離効果を持つことが確かめられたが、駆動される電流が小さい点と他の予備電離手段に比べて使い勝手が悪いことから、本格的な使用は行わなかった。



主要投稿論文

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