科研費基盤(S)
低域混成波による球状トカマクプラズマの電流駆動
(平成21−25年度)
トカマク型プラズマ閉じ込め装置では、プラズマ中に流れる電流(プラズマ電流)
が不可欠である。プラズマ電流は通常、トーラス中心部に位置するCSと呼ばれる
コイルで駆動される。CSを用いずにトカマクを運転できれば、トカマク核融合炉の
小型化による経済性向上が実現可能となる。これは、トーラス中心部のスペースが
限られている球状トカマク(ST)では、核融合炉の成否に関わる最重要課題である。
電子サイクロトロン波(ECW)による低プラズマ電流のST配位形成は、東京大学の
TST-2装置等で既に実証されている。本研究では、これに低域混成波(LHW)による
電流駆動を加え、プラズマ電流を増加させることを目指す。これを実証できれば、
ST型核融合炉の実現性が格段と高まる。
公表用資料
当初計画
進捗状況
成果報告
研究成果概要
- 2009年度
- 波動伝搬領域を確保するため、トロイダル磁場を0.3 Tまで増強した。方向性をもつ進行波を励起できない2ストラップ型ループアンテナを用いて実験を開始した。
- RFによるプラズマ電流立ち上げ時には、開いた磁場配位から閉じた磁気面を持つST配位が自発的に形成される。干渉計を多チャンネル化し、この過程に伴う密度分布の変化を計測した。
- 21 MHzのRF実験で得られた、多チャンネル磁気計測によるRF磁場分布・偏波・波数測定、反射計による局所RF電場の評価、静電プローブによる密度・ポテンシャル揺動計測等の種々のRF波動測定データに相関法を適用した結果、有意な三波結合が観測され、低周波モードは入射されたポンプ波とパラメトリック不安定性により励起された低域サイドバンド波のビートで駆動されていることが明らかとなった。
- UTST装置では、プラズマ中に挿入した磁気プローブアレイで計測されたRF波動の振幅分布、位相分布を解析した。波の振幅変調に伴う時間遅れの解析より、UTSTプラズマによる吸収は弱く、トロイダル方向に何周も周回していることがわかった。
- 2010年度
- 方向性をもつ進行波を励起するコムラインアンテナを用いた実験を開始した。このアンテナはLHWではなく速波(FW)を励起するため、FWをLHWに変換する機構が必要となる。これらのアンテナを使った実験結果より、プラズマ生成直後はプラズマが自発的に流す圧力駆動電流が支配的だが、更に電流を上昇させるためには、RFが電子を加速する直接駆動電流が重要となることが明らかとなった。これはSTでもLHWによる電流駆動が可能であることを示す世界初の成果である。
- イオン種(H/D)によりプラズマ電流立ち上がり特性が異なることが明らかとなった。
- 励起された波のRF磁場および電場の空間分布および偏波を磁気プローブおよび静電プローブで調べ、パラメトリック崩壊による非線形結合を確認した。
- 波動に加速された高エネルギー電子の情報を得るため、X線エネルギー分布測定用波高分析器の改良等を行った。
- 電流駆動研究にとって重要なバルク電子温度測定用トムソン散乱の性能向上により、OH放電ではダブルパス方式による温度非等方性も含めた電子温度計測に成功しているが、今後はLHWで立ち上げた密度の低いプラズマでも測れるよう改良を続ける。
- LHWを直接励起するため、電磁解析コードCOMSOLを用いて、アルミナを充填した導波管アレイ(グリルアンテナ)を設計した。(製作は年度を繰り越して行われた。)
- 2011年度
- コムラインアンテナを用いた実験を継続し、更に高い電流(15 kA)までのプラズマ電流立ち上げを達成した。
- 励起された波のRF磁場やRF電場の周波数スペクトル、空間分布、偏波等を磁気プローブ・静電プローブで調べた結果、非線形過程による200 MHzのFWの200MHz以下のLHWへの変換が示唆された。
- X線エネルギー分布測定用の波高分析器の改良等を行い、波に加速された高速電子の速度分布関数に関する情報を得た。プラズマ電流の極性反転、X線測定視線スキャン、プラズマ電流上昇時の時間変化等より、高速電子の速度分布関数の非対称性や時間変化がわかり、RF進行波が電子を一方向に加速する波動電流駆動の重要性が確認された。
- 静電プローブで測定される浮遊電位が大きく負になることが観測されており、高エネルギー電子に関する情報が得られる可能性が検討されている。
- 磁気計測に基づくプラズマ平衡の再構成、プラズマの温度・密度分布計測も改良を加えており、これらの結果を総合して電流駆動の物理機構解明を目指している。
- LHWのプラズマ中心部への伝搬には、0.3 T程度の磁場が必要なので、この磁場での予備電離に有用な8.2 GHzのECH装置の設置を行った。
- グリルアンテナがTST-2に設置され、直接励起LHWによる電流駆動実験を開始した。FW励起とLHW励起の実験結果を比較することにより、モード変換に関する情報が得られ、LHW直接励起の必要性を判断することができると期待される。
- 2012年度
- グリルアンテナを用いて得られた電流駆動効率は、速波(FW)励起の誘導結合型コムラインアンテナで得られたのとほぼ同等であり、同程度のプラズマ電流までの立ち上げが達成された。
- グリルアンテナからプラズマ波動への結合効率は予想以下であり、入射電力の約半分が反射されるため、プラズマ中に励起されたLHWの波数スペクトルが大幅に劣化することがわかった。
- 実験条件下でモデル計算により調べたところ、高電力では高周波(RF)電場に起因するポンデロモーティブ力によりプラズマがアンテナ前面から排除され、結合が悪化すると推論された。
- 新たに設置した8.2 GHzのマイクロ波を用い、LHWのプラズマ中心部への伝搬に必要なトロイダル磁場0.3 Tの実験を行ったところ、電流駆動効率はトロイダル磁場が高いほど、またプラズマ電流が高いほどよくなることがわかった。
- 励起された波のRF磁場を5個の磁気プローブより成るプローブアレイで計測したところ、波の偏波(LHWまたはFW)により波長が異なること、それらがLHWおよびFWの分散関係式を満たすことが確認された。
- プローブで観測された波のトロイダル方向の波長はアンテナが励起したLHWの波長より長いことが明らかとなった。
- アンテナからプラズマへの結合および励起されるLHWの波数スペクトルを改善するため、新たな概念にもとづく静電結合型コムライン(CCC)アンテナを開発・製作し、実験を開始した。
- 2013年度
- グリルアンテナの波数制御性を活かして最適波数を調査した。プラズマ電流達成値および硬X線エネルギースペクトルより、磁場方向の規格化波数n||=ck||/omegaの最適領域は1〜5であることがわかった。
- RFパワー変調に対するX線の応答および粒子軌道計算により、プラズマ周辺部で生成された高速電子の多くは損失してしまうことがわった。これが電流駆動効率低下の原因だと考えられる。
- 電流駆動効率eta_CD=n_e*I_p*R_0/P_RFは、新規に開発したCCCアンテナを使った場合に最も高い値が達成された。その理由は、CCCアンテナは方向性が高く、シャープな波数スペクトルをもつLHWを励起できるからだと考えられる。
- 磁場を高めれば波がプラズマ中心部に到達しやすくなり、プラズマ電流を高めれば軌道損失が減るので、eta_CDは改善されると考えられる。
- 密度を高めると高速電子のエネルギーを制限し、軌道損失を制限できるが、高めすぎると電流駆動効率が急激に劣化するので、最適化が必要である。
- 高パワー入射で観測される密度上昇の抑制に、電子サイクロトロン波の入射が有効であることが実験で示された。
- 局所リミターを適切な位置に設置してアンテナ前面の電子密度を減少させることができれば、波数スペクトルの更なる改善が期待できる。
- 上記の方策により、電流駆動効率の改善が実現できると考えられる。
主要投稿論文
- 2009年度
- Non-inductive plasma current start-up by EC and RF power in the TST-2 spherical tokamak
A. Ejiri, Y. Takase, T. Oosako, T. Yamaguchi, Y. Adachi, O. Watanabe, Y. Nagashima, B.I. An, H. Kobayashi,
H. Kurashina, H. Hayashi, H. Matsuzawa, K. Yamada, H. Tojo, T. Masuda, M. Sasaki, R. Kumazawa, H. Kasahara,
F. Shimpo
Nucl. Fusion 49, 065010 (2009).
- Parametric decay instability during high harmonic fast wave heating experiments on the TST-2 spherical tokamak
T. Oosako, Y. Takase, A. Ejiri, Y. Nagashima, Y. Adachi, H. Kasahara, T. Yamada, O. Watanabe, H. Tojo,
S. Kainaga, J. Sugiyama, T. Yamaguchi, B. An, H. Hayashi, H. Kobayashi, H. Kurashina, H. Matsuzawa,
K. Yamada, R. Kumazawa, F. Shimpo, Y. Ono, T. Masuda, M. Sasaki
Nucl. Fusion 49, 065020 (2009).
- 2010年度
- Observation of beat oscillation generation by coupled waves associated with parametric decay during radio frequency wave heating of a spherical tokamak plasma
Y. Nagashima, T. Oosako, Y. Takase, A. Ejiri, O. Watanabe, H. Kobayashi, Y. Adachi, H. Tojo, T. Yamaguchi, H. Kurashina, K. Yamada, B. I. An, H. Kasahara, F. Shimpo, R. Kumazawa, H. Hayashi, H. Matsuzawa, J. Hiratsuka, K. Hanashima, H. Kakuda, T. Sakamoto, T. Wakatsuki
Phys. Rev. Lett. 104, 245002 (2010).
- Direct measurements of the high harmonic fast wave profile in the UTST spherical tokamak plasma
T. Wakatsuki, Y. Nagashima, T. Oosako, H. Kobayashi, B. I. An, H. Kakuda, T. Yamada, R. Imazawa, O. Watanabe, T. Yamaguchi, H. Kurashina, H. Hayashi, K. Yamada, T. Sakamoto, K. Hanashima, J. Hiratsuka, S. Kamio, R. Hihara, K. Abe, M. Sakumura, Q. Cao, M. Inomoto, Y. Ono, A. Ejiri, Y. Takase
Plasma and Fusion Res. 5, 018 (2010).
- Evaluation of edge electron temperature fluctuation by use of conditional technique on TST-2
J. Ozaki, M. Sonehara, Y. Nagashima, Y. Takase, A. Ejiri, K. Yamada, H. Kakuda, S. Inagaki, T. Osako, B.I. An, H. Hayashi, K. Hanashima, J. Hiratsuka, H. Kobayashi, H. Kurashina, T. Sakamoto, T. Yamaguchi, O. Watanabe
Plasma and Fusion Res. 5, 023 (2010).
- Electron Density Measurements of Non-inductive Start-up Plasmas in the TST-2 Spherical Tokamak
H. Kurashina, A. Ejiri, Y. Takase, K. Hanashima, T. Sakamoto, O. Watanabe, Y. Nagashima, T. Yamaguchi, B. I. An, H. Kobayashi, H. Hayashi, K. Yamada, H. Matsuzawa, H. Kakuda, J. Hiratsuka, T. Wakatsuki, T. Oosako
Plasma and Fusion Res. 5, 024 (2010).
- Comparison of Hydrogen and Deuterium Plasmas in ECH Start-Up Experiment in the TST-2 Spherical Tokamak
O. Watanabe, A. Ejiri, H. Kurashina, T. Ohsako, Y. Nagashima, T. Yamaguchi, T. Sakamoto, B.I. An, H. Hayashi, H. Kobayashi, K. Yamada, H. Kakuda, J. Hiratsuka, K. Hanashima, T. Wakatsuki, Y. Takase
Plasma and Fusion Res. 5, S2032 (2010).
- Fluctuation measurement in the edge plasma on TST-2
Y. Nagashima, J. Ozaki, M.Sonehara, Y. Takase, A. Ejiri, K. Yamada, H. Kakuda, S. Inagaki, T. Oosako, B.I. An, H. Hayashi, K. Hanashima, J. Hiratsuka, H. Kobayashi, H. Kurashina, H. Matsuzawa, T. Sakamoto, T. Yamaguchi, O. Watanabe, T. Wakatsuki
Plasma and Fusion Res. 5, S2048 (2010).
- Development of a bright polychromator for Thomson scattering measurements
A. Ejiri, T. Yamaguchi, J. Hiratsuka, Y. Takase, M. Hasegawa, K. Narihara
Plasma and Fusion Res. 5, S2082 (2010).
- Development of a Thomson scattering system in the TST-2 spherical tokamak
T. Yamaguchi, A. Ejiri, J. Hiratsuka, Y. Takase, Y. Nagashima, O. Watanabe, T. Sakamoto, T. Oosako, B. I. An, H. Kurashina, H. Kobayashi, H. Hayashi, H. Matsuzawa, K. Yamada, H. Kakuda, K. Hanashima, T. Wakatsuki
Plasma and Fusion Res. 5, S2092 (2010).
- 2011年度
- Development of a plasma current ramp-up technique for spherical tokamaks by the lower hybrid wave
Y. Takase, A. Ejiri, H. Kakuda, Y. Nagashima, T. Wakatsuki, O.Watanabe, P. Bonoli, O. Meneghini, S. Shiraiwa, J. Wright, C. Moeller, H. Kasahara, R. Kumazawa, T. Mutoh, K. Saito, TST-2 Group
Nucl. Fusion 51, 063017 (2011).
- Evaluation of edge electron temperature fluctuation by the use of fast voltage scanning method on TST-2
Y. Nagashima, A. Ejiri, Y. Takase, M. Sonehara, H. Kakuda, T. Oosako, J. Hiratsuka, O. Watanabe, T. Yamaguchi, H. Kobayashi, T. Wakatsuki, T. Sakamoto, K. Hanashima, T. Ambo, R. Shino, S. Inagaki
Plasma and Fusion Res. 6, 2402036 (2011).
- Development of a Double-pass Thomson Scattering System on the TST-2 Spherical Tokamak
J. Hiratsuka, A. Ejiri, M. Hasegawa, Y. Nagashima, Y. Takase, H. Tojo, T. Yamaguchi, T. Ambo, H. Kakuda, T. Sakamoto, R. Shino, M. Sonehara, T. Wakatsuki, O. Watanabe
Plasma and Fusion Res. 6, 1202133 (2011).
- First measurement of electron temperature from signal ratios in a double-pass Thomson scattering system
H. Tojo, A. Ejiri, J. Hiratsuka, T. Yamaguchi, Y. Takase, K. Itami, T. Hatae
Rev. Sci. Instrum. 83, 023507 (2012).
- 2012年度
- Demonstration of in-situ relative calibration method for a Thomson scattering diagnostic on TST-2
H. Tojo, A. Ejiri, J. Hiratsuka, T. Yamaguchi, Y. Takase, K. Itami, T. Hatae
Journal of Instrumentation 7, P04005 (2012).
- X-ray Measurements during Plasma Current Start-up Experiments using the Lower Hybrid Wave on the TST-2 Spherical Tokamak
T. Wakatsuki, A. Ejiri, H. Kakuda, Y. Takase, T. Ambo, H. Furui, T. Hashimoto, J. Hiratsuka, H. Kasahara, K. Kato, R. Kumazawa, Y. Nagashima, K. Saito, T. Sakamoto, T. Seki, F. Shimpo, R. Shino, T. Shinya, M. Sonehara, O. Watanabe, T. Yamaguchi, C. P. Moeller
IEEJ Trans. FM, 132 (7) 485-489 (2012).
- Fluctuation Measurement Across the Broad Range of the Low-field Side Edge Plasmas in the TST-2 Spherical Tokamak
M. Sonehara, Y. Nagashima, Y. Takase, A. Ejiri, T. Yamaguchi, T. Ambo, H. Kakuda, H. Hiratsuka, T. Sakamoto, R. Shino, T. Wakatsuki, O. Watanabe
IEEJ Trans. FM, 132 (7) 499-504 (2012).
- Off-Axis Temperature Anisotropy Measurement by Double-Pass Thomson Scattering Diagnostic System on TST-2
J. Hiratsuka, A. Ejiri, M. Hasegawa, Y. Nagashima, Y. Takase, H. Tojo, T. Yamaguchi, T. Ambo, H. Furui, T. Hashimoto, H. Kakuda, K. Kato, T. Oosako, T. Sakamoto, R. Shino, T. Shinya, M. Sonehara, T. Wakatsuki, O. Watanabe
Plasma Fusion Res. 7, 2402092 (2012).
- Development of Multi-channel Doppler Spectroscopic Measurement System Using 8 X 8 Multianode Photomultiplier Tube Assembly
S. Kamio, N. Suzuki, Q. H. Cao, T. G. Watanabe, K. Abe, M. Sakumura, K. Ishiguchi, R. Imazawa, T. Yamada, M. Inomoto, Y. Takase, Y. Ono
Rev. Sci. Instrum. 83, 083103 (2012).
- Electron Temperature Measurement on QUEST spherical tokamak by Thomson scattering system
T. Yamaguchi, A. Ejiri, J. Hiratsuka, M. Hasegawa, Y. Nagashima, K. Narihara, Y. Takase, H. Zushi, the QUEST group
Plasma Fusion Res. 8, 1302001 (2013).
- 2013年度
- Non-inductive plasma initiation and plasma current ramp-up on the TST-2 spherical tokamak
Y. Takase, A. Ejiri, H. Kakuda, T. Oosako, T. Shinya, T.Wakatsuki, T. Ambo, H. Furui, T. Hashimoto, J. Hiratsuka, H. Kasahara, K. Kato, R. Kumazawa, C.P. Moeller, T. Mutoh, A. Nakanishi, Y. Nagashima, K. Saito, T. Sakamoto, T. Seki, M. Sonehara, R. Shino, H. Togashi, O. Watanabe, T. Yamaguchi
Nucl. Fusion 53, 063006 (2013).
- Injection and Confinement of a Laser Pulse in a Optical Cavity for Multi-pass Thomson Scattering Diagnostics in the TST-2 Spherical Tokamak Device
H. Togashi, A. Ejiri, M. Hasegawa, J. Hiratsuka, Y. Nagashima, K. Nakamura, K. Narihara, Y. Takase, H. Tojo, N. Tsujii, I. Yamada, T. Yamaguchi, TST-2 Team
Plasma Fusion Res. 9, 1202005 (2014).
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