高温・高ベータプラズマの物理


プラズマが高温・高密度化していくとプラズマの圧力が高まり、ベータが高まります。ベータとはプラズマ圧力と閉じ込め磁場の圧力との比で、磁場によるプラズマ閉じ込め能力を特徴づける重要なパラメーターです。高ベータプラズマでは、プラズマの圧力勾配により電場が生じ、強い流れが生じます。また流れが一様でなく、勾配をもっていると(これを「流れにシアがある」といいます)、流れのシアにより乱流が抑制され、輸送が軽減されます。また輸送の大きい状態から輸送の小さい状態への不連続な変化(これを「遷移」と呼びます)が起こることが知られています。最近では、このような現象を説明できる理論が整備されてきており、実験的にもプラズマ中の電場や流れを制御することで、輸送の極めて小さい(つまり損失の極めて小さい)プラズマを実現することが可能になっています。

また高ベータに加えて高温という条件が加わると、プラズマ中に自発的に電流が流れるようになります。プラズマ閉じ込め効率の高いトカマク系装置ではプラズマ平衡を保つためにプラズマ中に電流が流れていなければなりませんが、これを外部から駆動するのでなくプラズマ自身が作り出すことを利用すると定常化が容易になり、経済性も格段と改善されます。自発電流だけでプラズマ平衡を保つことができるかというのは、熱輸送・粒子輸送・角運動量輸送・電流拡散などが複雑に絡み合った問題であり、極めてチャレンジングな課題です。

プラズマ中にはこのほかにも興味深い研究対象となる課題がいくつもあります。磁気配位に摂動が加わると、磁力線がカオス的にふるまうようになり、このような領域ができると熱が磁力線に沿って逃げることが可能となり、熱の閉じ込めが劣化します。一方、磁場により閉じ込められている粒子は周期運動をしていますが、粒子運動と共鳴する波動が摂動として加わった場合、粒子の軌道は速度空間でカオス的になり、その結果エネルギーの低い粒子とエネルギーの高い粒子の混合が起こります。この現象を利用して波を用いたプラズマの加熱ができます。また一方向のみに伝播する波を用いれば、プラズマ中に電流を誘起することができます。また波によりプラズマを回転させて乱流を抑制することも理論的には可能であることが示されています。

このように、高温プラズマは非線形集団現象の宝庫であり、新しい研究領域を創りだしていくのに絶好の機会を与えてくれます。