核融合研究の意義


今後、世界的に人口は増加し、開発途上国の生活水準の向上に伴いエネルギー消費は増加し続けます。これを化石燃料の燃焼により賄うのは、資源の有限性と環境負荷(グリーンハウスガスや酸性雨の問題等)の両面から現実的ではありません。次世代の基幹エネルギー源としての必要条件は1. 資源量が豊富で局在していないこと、2. 環境保全性、安全性に優れていること、ですが、核融合発電はこれらの条件を満たし得る数少ないオプションの一つとして期待されています。核融合研究は過去約40年間で飛躍的な進歩を遂げ、現存の装置で核融合反応による出力パワーが外部より供給される入力パワーを上回る条件(これをbreak-evenと呼びます)を達成する段階まできています。次のステップとして、核融合反応による出力が支配的となる「燃焼プラズマ」の研究を行う 国際熱核融合実験炉(ITER)プロジェクトが国際協力で進んでいます。

しかし核融合発電が実用化されるためには、上記の条件のほかに経済性を高める必要があります。そのためには核融合炉を小型化、高ベータ化する必要があります。ベータとはプラズマ圧力と閉じ込め磁場の圧力との比で、磁場によるプラズマ閉じ込め能力を特徴づける重要なパラメーターです。プラズマの圧力が磁気圧に比べて高くなってくるとプラズマが不安定になり易くなりますが、不安定性を抑え、高い圧力のプラズマをいかに安定に保つかが問題となります。ITERでは今のところ最も研究の進んでいる「トカマク」という閉じ込め方式を採用していますが、トカマクではベータは5%程度の低い値に制限されてしまいます。トカマクの改良型である球状トカマク(Spherical Tokamak、略してST)では、50%程度の高いベータが実現可能であると考えられており、近年世界中で研究が急速に展開しつつあります。本研究室のTST-2は、日本では最大規模のST装置であり、重要な役割を担っています。高ベータプラズマが安定に実現できれば、最初の核融合炉が使うD-T反応に比べ、中性子生成量の格段に少ないD-D反応やD-3He反応を用いた先進的な核融合炉が実現可能となるので、極めて高い意義を持ちます。